2007/10/26

『隠された記憶』

隠された記憶 これは、いろいろと解釈できる映画ですねえ。

 テレビ・キャスターとして活躍するジョルジュは、出版社に勤める妻と12歳の息子の3人暮らし。ある日、彼のもとに、妙なビデオが送りつけられる。自宅を正面からえんえんと撮影しただけのそのビデオには、子どもが血を吐いているところを描いた、稚拙な絵が同封されていた。いったい誰が、なんのために? その後もビデオと絵が届き、不安を募らせたジョルジュは警察に相談するものの、実害がないので具体的になにをしてくれるわけでもない。そんなとき、血まみれのニワトリの絵が送られ、ジョルジュは子どものころのある出来事を思い出す。

 BGMもなく、物語は静かながら緊張感を持って進んでいきます。ジョルジュの視点とビデオカメラの視点が入り混じるうえに、ジョルジュの回想シーンも差し挟まれるのですが、この撮り方が絶妙で、いっしゅんたりとも画面から目が離せないんですよね。

 けっきょく、ビデオの送り主が誰なのか、明確な答えはしめされません。正直、あれ、そこで終わるの? とびっくりするような終わり方です。だから、見ているほうはカタルシスが得られず、すっきりしないまま、現実に引き戻されてしまう。それがつまらないと考える人もいるでしょう。というか、そう考えるほうが自然だと思います。

 でも、わたしはおもしろいと思いました。子どものときについたたわいもない(と本人は思おうとしている)嘘により、他人の人生をめちゃくちゃにしてしまったジョルジュですが、その現実をまざまざと突きつけられても、謝罪の言葉のひとつも口にせず、それどころか、やましい気持ちを起こさせた相手に八つ当たりする始末。その根底に差別意識があるのは明らかです。最後の、相手のあの行動だって、本当に起こったことじゃないかもしれません。もしかしたらジョルジュが……と勘ぐってしまいます。

 犯人については、エンドロールが流れるときのあれがヒントなのかと思う部分もありますが、けっきょく、すっきりした解答は得られないんですよね。かつての植民地支配もかかわっているようにも思えるし。とにかく、いろいろと自分なりに想像をめぐらせることのできる映画です。

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